カブでヨーロッパ一周編

 北極圏の新たなる思い出 [ノルウェー] (2001/11/28-12/01)

・11/28 新たなる旅もトラブルから
・11/29 天気と太陽の波
・11/30 「お前らもっと気合入れんかい!」
・12/01 最高の時間

通貨単位:NOK(ノルウェークローネ)/1NOK=約13.6円


11/28 晴れ|曇り|雪|晴れ 新たなる旅もトラブルから Tromso/Svein邸に居候

 いよいよ今日から「追億編」に入る。「追億編」はもちろん「別れ」から始まる。「カブでヨーロッパ一周」をずっとサポートし続けてくれたReynaud一家との別れ・・・とても辛いがどうしようもない。ただ「ありがとう」という言葉を添えてさよならするしか出来なかった。深く関われば関わるほど、悲しさは大きくなるが、それには大きな「価値」が生まれる。オレは彼らからたくさんのものをもらった気がした。

 お父さんに最寄の駅まで送ってもらい、空港を目指す。昨夜のように電気系のトラブルも無く、無事に「CDG 1」駅に到着。駅から空港までは無料バスが運行している。バス乗り場へ向う前に、駅の電光掲示板でオレの乗る「SASのパリ発-オスロ着」を確認・・・??何やら右に追加されているぞ。しばらく待つとフランス語から英語に切り替わりその意味がわかった。「cancelled」つまり、このフライトは「欠航」になってしまったのだ。まぁ、欠航になったからと言って、目的地に行けないわけではないが、少しの遅れは覚悟しないといけない。ここで考えても仕方ないので、そのままバスで空港へ向う。

 SASのカウンターで確認したが、当たり前なんだけどやっぱりキャンセル。その為、予定便の約1時間後に離陸する便でコペンハーゲンへ飛び、コペンハーゲンで乗り換えてオスロに行くことになった。さらにオスロからトロムソまでのフライトもあり、乗り換え1回の予定が、2回もすることになってしまった。トロムソ到着は約2時間遅れることになった。

 まぁ、オレにとって機内は「無料のバー」に等しく、スコッチウィスキーとともに空の旅を楽しみ、それ程退屈することもなかったから良しとしよう(笑)

 オスロ上空に来てまず驚いたのが、一面の雪。コペンハーゲンでは雪は見られなかったが、スカンジナビアの底力を見た気がした(意味不明)。この調子だとトロムソは恐らく雪だらけの極寒の地だろう。何と言っても「北緯69.5度の北極圏」だからね。またオスロ空港で珍しい光景を見ることが出来た。可動部分が凍りつくのを防ために、離陸前の飛行機の翼に何かしらの液体をスプレーで噴霧している。雪国に住んでいる人にとっては冬の当たり前の光景なんだろうけどね。

 飛行機は定刻通りトロムソ空港に到着し、荷物の受け取り場所の手前でSveinさんは待っていてくれた。Sveinさんはトロムソ空港で働いているので、パリのSASカウンターから2時間遅れることを伝えてもらうように頼んでいた。ちゃんと伝えてくれたのかと思ったが、Sveinさんは乗客名簿を見ただけらしい。さすが空港で働いているだけあって、その辺はぬかりなくて助かった。

 次は荷物が流れてくるのを待つというのが普通だが、Sveinさんは「ほな、荷物取りに行くでー」と、関係者以外立入禁止の閉ざされた部屋にオレを連れて入っていき、ベルトコンベアに載せる前に荷物をピックアップ。そのまま空港内の車(業務用)に乗り込み駐車場へ。Sveinさんの車に乗り換え、他の乗客よりも一足先にトロムソの街へ走り出した。

 久しぶりの再会に話もはずむ。オスロ空港で液体を噴霧している車を見たといったら、Sveinさんは「その仕事」をトロムソ空港でしているんだって。ちなみにその液体は「グリコール」だそうだ。

 そんなこんなの1日だったが、一日中飛行機の中に居た気がする。少々疲れてしまった。

11/29 晴れ 天気と太陽の波 Tromso/Svein邸に居候

 昨夜も今日もトロムソはいい天気。オーロラが出現してくれたら絶好のコンディションだったんだけど、残念ながら肝心のオーロラが出ないことにはどうしようも無い。天気予報があるように、オーロラの出現にも予報があって、オーロラオーバルのアクティブレベルが刻々と更新されている。また太陽の活発さに深い関わりがあり、Sveinさんが言うには、太陽の活動が活発だった約2日後にオーロラが出やすいらしい。昨夜の予報ではオーロラオーバルも太陽も低調気味のご様子・・・また、太陽のコンディションが良くても、曇っていては意味が無い。その2つの波が合致した時に、綺麗なオーロラが見えるのだそうだ。なかなか難しいぞ。

 昨日の疲れもあり起床は12時。Sveinさんは早朝5:30からから勤務とのことで、オレ1人でお留守番。太陽の昇らない極北なので、昼間も真っ暗だと思い込んでいたがそんなことはなかった。もちろん太陽は一日中沈んだままだが、朝10時から12時間くらいは結構明るい。明るいと言っても「dawn」という表現がしっくりくる感じ。また、寒さも全然大したこと無い。一日中気温はほぼ一定で+3度位。道路に雪は無いが、凍り付いている部分がまれにある。それゆえにタイヤはもちろん「スタッドタイヤ」。ちなみにSveinさんの車は三菱のデリカ。

 夕方(真っ暗なんだけど)から、トロムソでオーロラの写真を専門に撮っているというSveinさんの友人(写真左:手に持った星座板がナイス。「オーロラマン」と命名)の家へ行くことになった。「毎日毎日オーロラをチェックしてる『Little boy』や。めっちゃ背低いねんでー」とSveinさんが話していたその人の家へ入り、出迎えてくれたのが身長2mを越える巨漢・・・えぇ?と思ってSveinさんを見ると大笑いしている(笑)

 そのグリズリー張りの「オーロラマン」は、今まで撮りためたオーロラ写真をスライドショーで見せてくれた。凄い写真が目白押しで、その中の1枚をお土産にもらってしまった。写真を見た後はオーロラを求めて街明かりの無い所へ車を走らせる。雲はなく、明日が満月だということで結構明るい。しかしオーロラはというと、今日は全く出てこない様子。しばらく待ったが「こら、今日はあかんなぁ」ってことで引き上げてきた。なかなか思い通りにいかないのが自然ってところかなぁ・・・ちなみに右の写真がSveinさん。

11/30 曇り|晴れ|曇り 「お前らもっと気合入れんかい!」 Tromso/Svein邸に居候

 夜までずっと雲に覆われていたが、夜になってその雲も晴れ、満月がはっきりと見えるようになった。ベランダから夜空を見上げると、わずかだがオーロラが現れている!本当に薄っすらなので、目を凝らさないと分からないが、間違いなくオーロラだとSveinさんは言う。15分程待って、まだ見えていたら車で街明かりの来ない所へ行こう!ということになった。オレにとってはちょっとした興奮状態。「オーロラダンスをやるスペースを作らなあかんから、この机どけるぞ!」とSveinさん(笑)

 15分後に空を見上げたら先程見えたのは消えていた・・・しかしよく見ると、違う方角に薄っすらと出ているではないか!「良し行くで!」と身支度を整え、寒さ対策で持ってきたライダースーツに身を包み出発!街から離れ、街明かりの来ない近くにある山へ向う。そこへ車を飛ばしている途中、Sveinさんが「Look! Look!」と言って窓ガラスから指差す方向に、緑色のはっきりとオーロラと判るものが出ていた。「スゲー!」と日本語で声をあげてしまった(^_^;;

 観測スポットに到着し空を見上げると、先程のオーロラは何気に光っている程度で、すぐに消え失せてしまった・・・これではお話にならない。満月に照らされた中でオーロラの再出現を待つ。夜中でも「真闇」という言葉とは程遠い程に明るい。辺りは一面雪。走っている時はただのグラベル(未舗装路)だと思っていたが、完全に凍りついていて「アイススケート」状態。こんな道でも平然と走っていたのだ!さすがはスタッドタイヤ、というより雪国のドライバーの運転技術には脱帽した。しかし、満月がこんなにも明るいとは知らなかったよ・・・

 気温は+1、2度というところだろうが風があるので強烈に冷える。車内で待機しながら時々外に出て空を眺める。が、待てども待てどもオーロラは姿を見せない。さっきまで出てたのに、気合入れんかい!と言いたくなる気分(笑) 結局その後、雲が現れて観測出来無くなってしまい、仕方なく引き上げることになった。

 「ホンマ、残念やなぁ・・・」と言いながら今夜もビール片手に談笑した。トロムソに来てから(というか本当はそれ以前からなんだけど)酒を飲んでいない日は無い。トロムソには世界最北端のビール工場があり、もちろんそこのビール「マック・ウェル」で乾杯。そういえばSveinさんが「マック・ウェル」のファンクラブみないなのの会員証を見せてくれた。実はオレもそれをゲットするべく画策中だったりする(笑)

12/01 曇り/雨 最高の時間 Tromso/Svein邸に居候

 昨夜はオーロラを追いかけていたので、寝たのは朝の4時半。もちろん目が覚めたのは昼の12時を回ってから。

 外は既に暗いものの時間はまだ昼過ぎ。こういう場所の学校の仕組みが気になったのでSveinさんに聞いてみた。オレとしては小学生がまだ真っ暗なうちに学校へ行って、真っ暗になってから学校から帰ってくるのはちょっと危ないんじゃないかなぁ、と思ったのだ。返ってきた答えは「時計に合わせて生活してんねんから、そら暗いうちに学校へ行って、暗なってから帰って来るでー。そんな危ないってことはあらへんよ。親によっては車で送り迎えやってるとこもあるけど、1人で歩いていってる奴もおるよ。」。明るさ暗さには特に関係無いみたい。まぁ「冬は暗い」ってのはここでは当たり前のことだから、そんなものなんだろうか・・・

 今日はSveinさんに連れられて博物館巡り。冬は昼の3時(もちろん真っ暗)に閉まる博物館もあるので、まずはその「北極圏博物館」からスタート。ここは文字通り「北極圏」に関するもので、越冬猟や北極圏探検などについて展示されている。オスロで見たフラム号やアムンゼンに関するものももちろんあり、かなり良かった。またここのお土産コーナーに売られている絵葉書は異様に素晴らしい。今まで色々な場所で多種多様の絵葉書を見たけど、ここのは特筆もの。オーロラの写真はもちろん雪景色や夏の太陽、大自然などなど。少し大判で1枚9NOK(約120円)もするが、それに見合う(というよりそれ以上。額に入れて飾っても申し分無い)クオリティーだったので多数購入してしまった。

 その後は「トロムソ博物館」へ移動。ここは市街からかなーり離れた場所にあるので、車が無いと行くだけでも一苦労だ。さらに非常に判りにくいロケーションがポイントを下げている。でも今回はSveinさんの車で連れて行ってもらったので、まぁ良しとしておこう。展示の方はというとまずまずで、ノルウェーの鉱物、化石、動物、原住民であるサーミ人の文化や彼らの社会的地位の回復についてなど、小さな博物館ながら多岐に渡っている。展示数が少なければ「つまらない博物館」かと言うと一概にそうとも言えず、いくら素晴らしいコレクションがあってもわかりにくくては「つまらない博物館」になってしまう。ここの展示数は決して多くはないが、展示方法に工夫しておりオレはなかなか良く出来た博物館だと思った。ただ場所がね・・・(^_^;;

 夕食はSveinさんの彼女の家に招待され、めちゃウマい中華料理をご馳走になった。Svein邸からは徒歩で約10分。道中、Sveinさんにノルウェー語で「こんばんは。私の名前はTAKUです。」と言うのを教えてもらった。英語でも通じるけど、少しでもその土地の言葉で話したいと思ったからだ。挨拶だけとしても、こういうことって結構重要なとこだと思うんだよ。

 「グークゥエル、イェイ ヒェイテル TAKU!」・・・この言葉から始まった。Sveinさん曰く、彼女はシャイとのことだったが、オレのこの言葉を聞いて大笑いしていた。さらにビールを飲む時には「ヒーヴィー ハー ヴゥァー!(北ノルウェーの「乾杯!」という意味)」。酒好きにとってこれ程に重要な言葉は無い。オレは「乾杯!」という意味の現地の言葉を使った時に受ける、親しみたっぷりの視線が好きだ。

 そうこうしながらビール、ワイン、コニャックと飲みふけった。Sveinさんと彼女はこれからさらにバーに行くと言ったが、そろそろ疲れてきたのでオレだけ先に家へ帰ってきた。かなり眠たかったと思っていたのだが、いざベッドに潜り込むと目が冴えてなかなか眠れない・・・仕方が無いのでリビングでタバコを吸いながらもう1本だけビールを飲むことにした。

 ボケーっとビールを片手にソファーに座っていると、Sveinさんが帰ってきた。「あぁー、今日は飲み過ぎたわー」と言いながら冷蔵庫からビールを取り出す。かなり酔っ払っているようで、ろれつが回っていないが、Sveinさんは「喋り上戸」で、語りモードに入った(笑)

 「おう!ほんだらTAKUに歌を歌うたるわ」と言ってギターを片手に弾き語りを始めた。オレも結構酔っていた。「TAKUがこんなに遠いトロムソまで来てくれて、俺はホンマに嬉しいんや・・・。TAKUは帰る時に『Good bye!』って言うやろうけど、俺はまた会いたいと思うてるんや」と言われた時には涙がこぼれそうになって、トロムソまで来て良かったなぁとしみじみ思った。そしてオレは「オレもそう思うてるよ。人生の中で何回も何回も会えたらええなって・・・」。そして「ありがとう・・・」。「せっかくここまで来てくれたんやから、オーロラを見てもらいたいんや」とSveinさんは言ってくれたが、この時オレは「オーロラ」よりももっと素晴らしいものを得たと感じた。正直、オーロラを見ることが出来なくても十分満足のいくトロムソ滞在。夜更けまで話をしたが、オレにとって忘れられない最高の時間だった。


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