カブでヨーロッパ一周編

 大自然に囲まれた町 [スイス] (2001/05/18-05/22)

・05/18 林道を散策
・05/19 ティトゥリス山
・05/20 スイスの日本人
・05/21 のんびり過ごす
・05/22 実はまだエンゲルベルグ

通貨単位:CHF(スイスフラン)/1F=約 70円


05/18 雨|曇り 林道を散策 Engelberg/HOTEL MARO/61.1km

 今日も早起き。待ちに待ったスキーが出来ると思いきや雨。結構降っているので嫌な感じ。朝食を食べて部屋で様子を見ていると雨は止み晴れ間が覗いた。山の天気は変わりやすいというが、変わりすぎだ。

 スキー場へ登るケーブルカー乗り場へ行くが、今日はスキー場付近(標高2,000から3,000m)が悪天候の為closed。チケット売り場のおねーさんに「じゃあ明日また来るよ」と言ったら「天気予報では明日は晴れらしいから、きっと大丈夫よ」という心強い返事。明日もう一度来てみることにしよう。

 天気も悪くないので、マウンテンバイクのコースをカブで挑戦することにした。雄大なアルプスを眺めながらのんびりと走るのは最高。森の中では野ウサギも見た。舗装路からダートに変わり、さらに登っていく。雲が足元より下にあるんだぜ!

 標高1,700mを越えたあたりで道路が雪に埋もれておりここで断念。さらにここで休憩していると雪が降り出した。他にも色々なルートを通ってみたが、どこも雪で埋もれていて途中までしか行けなかった。

 そのうちのひとつで、結構勾配のきついダートを下っている途中で雪に埋もれているところがあった。方向転換するだけでも一苦労。タイヤを滑らせながら何とか向きを変えるが、タイヤがスピンして登れなくなってしまった。気合を入れてカブを引きずって登ろうともしたが不可能・・・つまり戻れなくなってしまったというわけ。この時はさすがにあせった。まず荷物を全部下ろして車体を軽くし、手ごろな大きさの石をリアタイヤの下にしいて勢いをつけて発進。何度か挑戦し、スピンしながらも無事平坦なところまで戻れて一安心。歩いて荷物を取りに戻ったが汗だくになった。

 危機を脱し、今度はのんびりと池で釣りをするおじさんを見学。英語は分からなかったが、色々と教えてくれた。遊魚料を取っているだけに魚(鱒)は結構多い。10匹釣ったからもう帰るよと言って別れる。10匹釣って幾らというシステムみたい。オレも釣り道具を買ってやってみようかなぁ。

 昼飯はスキー場へのケーブルカー乗り場の近くにある中華料理屋。えらく賑やかな店のおばさんがなかなか楽しかった。この店には多くの外国人が来るらしい。もちろん中国系の人が多いが、マレーシアやシンガポール、タイなどのアジア系。日本人も多いみたい。旅の話をしてたらえらく長居してしまった。カレーを食ったのだが日本のものに似た感じでうまかった。中国にもカレーなんかあるのかな?

 そろそろガソリンもなくなってきたのでスタンドへ。エンゲルベルグには2件のスタンドがあるが、どちらも無人だった。しかもオレのカードは使えない・・・結局色々考えた末、500円惜しさに予備のガソリン(890ml)を入れておくことにした。今度ほとんどカラになった時にタンクと予備ボトルの両方に給油すれば被害は最小限に押さえられるだろう。ガス欠にならなければいいが・・・

 夕食は「マロ」のレストラン。店の親父が「魚は好きかい?今日はフレッシュな魚が入ってるよ!」と言うのでそれをいただいた。確かにうまかったが、値段はいただけない。スイスは物価が高いなぁ・・・

05/19 晴れ ティトゥリス山 Engelberg/HOTEL MARO/4km

  天気予報どおり朝から快晴。カンカン照りという言葉がぴったり。朝食の後ケーブルカー乗り場へ直行。もちろんスキー場もオープン。チケット売り場のおねーちゃんが言うには、上級者コースと中級者コースだけが滑走可能らしい。板とブーツはレンタルしウェアはプロテクター入りのライダースーツで、頭が寒いのでヘルメットをそのまま被る。ゴーグルと帽子を買うのも金がかかるし、眼鏡をつけたまま使えるゴーグルを探すのは面倒だからね。異様な格好でケーブルカーに乗って山を登っていく。便乗した老夫婦と仲良くなってゴンドラの中も楽しかったよ。

 途中1度乗り換えて、スキーが可能な「Stand」駅(標高2,428m)へ。早速滑るが、「中級者コース」という割には傾斜がきつい。日本でなら間違いなく上級者コースだろう。しかも、ゲレンデはアイスバーン状態のところも多い。滑っている地元スキーヤー、スノーボーダーはみんなプロ級。しばらく滑ってある程度スピードにも慣れて来た時、ダイナミックに転がって(「転ぶ」ではない)しまった(笑) 見事に一回転。おまけにポケットに入れていたコカコーラのペットボトルもはるか下方へ転がっていった(笑)

 疲れたのでゴンドラ乗り場のテラスにあるベンチで昼寝。強烈な太陽光線で日焼けしてしまった。また、ここから「上級者コース」を見上げることが出来る。日本でいうなら「超弩級コース」だろう。ゲレンデというより崖。こんなところを滑る奴の気がしれないと思うが、何人かは滑っている。

 と、その時である・・・あなたは人が死ぬ瞬間に遭遇したことがありますか?オレはこの時その瞬間に遭遇した。

 日本のゲレンデにはロープが張ってあって、その中では安全に滑れるというケースが多いと思うが、ここはそうではない。上級者コースは大岩や崖だらけで、その中で滑れる部分を探しながら滑るという感じ。少しでも選択を誤ると崖が待ち構えている。そう、ひとりのスキーヤーが崖から転落したのだ。転落後、自分でスキー板を地面に刺し助けを求めていたが、しばらくしてうずくまってしまった。すぐにレスキュー隊が出動。上級者コースを滑り降りて、いち早く現場に到着した隊員が心臓マッサージをしているようだった。それから何人かの隊員と、ヘリコプターまで到着。中からロープで人が降りてきた。依然として蘇生活動が続く。ひとり目の隊員が到着してから30分以上たっているのに状況は変わらない・・・普通、人間が呼吸停止してから蘇生する可能性が高いのはわずか5分といわれている。テラスに居た人は「きっと彼はもう死んでるわ。」と言っていたよ・・・

 そんな状況を目にしてしまい、スキーをする気がなくなってしまった。仕方がないので、板を「Stand」駅に置いて、標高3,028mの「Klein Titlis」へ。そこには氷河の洞窟や展望台、アイスフライヤーと呼ばれるタイヤチューブに乗って雪の上を滑る遊びなどがありなかなか楽しめた。写真はここからの眺め。どうだい、素晴らしいだろ?
  ここでオランダから来たという人達と仲良くなって、しばらく雪の上でゴロゴロした。その中のひとりの兄ちゃんは、なんと上半身裸で短パンというスタイル。「寒くないのか?」と聞いたけど「これでちょうどいいぜ!」だって。今ごろ風邪をひいてなかったらいいんだけど(笑)

 夕食は昨日の中華料理屋。雰囲気が楽しいのでまた来てしまった。スキー場の側にあるのに味も良く値段も安い。ここに集まる人も楽しい人ばかりで何故か盛り上がってしまう。今日はLuzernから来たという「ジェントルマン」という言葉がぴったりな黒スーツが似合っている中国系のカッコイイ青年と話をした。ちなみにオレに似合うスーツっていったら黒のライダースーツだね(笑)

05/20 晴れ スイスの日本人 Engelberg/HOTEL MARO/7.3km

 今日も快晴。いい天気は続くのはいいことだ。

 「マロ」では何故か早起きしてしまう。8時過ぎに朝日が差し込む東向きの部屋なのだが、窓からの眺めが素晴らしい!この風景がオレの起きるのを待っていてくれるんだから早起きするのも当然かも。ちなみに朝8時の気温は約5度。日中は晴れていれば20度近くまで上がるけど、朝晩は結構寒い。

 今日は昨日時間がなくてよく見られなかった、ティトゥリス山へのケーブルカーの途中駅周辺を散策することにした。乗り場でケーブルカーの切符を買ったのだが、料金体系がどうもおかしい。昨日スキーをした時49Fだったのに、今日は76F。全く同じ物なのにこの差は何だ?スキーヤーの方が乗る回数が多く、リフトまで使うのに・・・。何でやねん!とツッコミたかったが、とっさに言葉が出てこなかった。いかんなぁこんなことでは。

 標高1,800mの「Trubsee」駅で下車し周辺を散策。雪がいっぱいで、湖も凍てついている(左写真のオレの後ろが湖だよ)。このあたりをカブで走れたら最高だろうが、この雪ではどうにもならない。またライトトレッキングを楽しんでいる人も多い。ここで会ったおじいさんが「Not cold. Not warm.」と言っていたがその通り快適そのもの。ここで1日中昼寝ってのも悪くないね。

 次はその上の「Stand」駅(標高2,428m)へ。ここで「スノースクート」に乗っていた兄ちゃんと話をした。「スノースクート」は出発前から気になっていたもので、サドルの無いマウンテンバイクでタイヤの代わりにスノーボードがついている見るからに楽しそうな乗り物。是非実物を見てみたかったのだが、スイスで見ることが出来た。値段を聞いたら約600US$だって。「フランス製だから、バイクで旅をしてるんだったらフランスで買うと安いと思うよ」と言っていたので帰国時に調べてみることにしよう。いったい幾らかなぁ。

 その後再び標高3,028m「Klein Titlis」へ。ここで日本人の家族と出会った。彼ら田中さん一家はチューリヒに住んでいるお医者さんらしい。専門は脳外科。といってもオレにはよくわからないけど。またここで偶然にも田中さんの同僚だという藤本さん一家と出会う。とても親切な人達で「チューリヒに来た時には家に来てください」とも言ってくれ、連絡先を教えてくれた。チューリヒはオレの予定ルートでもあるので是非連絡することにしよう。こういう出会いはいいね。

 またスイスについて色々と教えてくれた。1995年まで各家に核シェルターの設置が義務付けられていたのには正直驚いた。他にも歴史や文化などいい勉強になった。

 彼らと一緒に山を降り、公園でしばし雑談。カブでの旅も絶賛してくれた(笑) これからチューリヒを訪れるのが楽しみになったよ。

 夕食はもちろん(?)あの中華料理屋。毎日行くので店の人も覚えてくれている。焼飯を頼んだら、サービスで超大盛が出てきた。これもかなりうまかった。さらにここでティテゥリスのレスキュー隊員達と会った。彼らは昨日の事故を見ていたオレの事を覚えてくれていたようで(そりゃもちろん覚えているだろう。なんせスキーをしていた東洋人はオレひとりだったからね)「Stand駅のテラスであの事故を見てたよね?」と尋ねられた。昨日の事故の事を聞いたが「オレ達が到着した時には、彼はすでに死んでいたよ」という答えが返ってきた・・・

 晴れない気分のままマロへ戻った。人の死はなんてあっけないものなんだろう・・・これから旅を続けるに当たって事故には十二分に気をつけよう。心からそう思った。

05/21 晴れ のんびり過ごす Engelberg/HOTEL MARO/19.2km

 今日は1日のんびり過ごした。

 天気もいいので昼過ぎまで林道を散策し、2時間程公園のベンチで昼寝。その後はカブの洗車。といってもホースがなかったので軽く拭いただけだけど。面倒くさく怠けていたエンジンオイル量の点検をしたらかなり減っていた。基準値を少し下回っており、これはイカンということでスバルのお店でオイルを購入。ガレージを貸してもらいそこでオイル交換。ついでに少し伸びてきたチェーンも張る。カブは命の次に大事なモノなので、これからはガソリン給油時にオイル量もチェックすることにしよう。大事に至らなくて本当に良かった。

 大自然を肌で感じることが出来るこの町にまだまだ滞在したいところだが、残念ながらそんな時間も無い。明日この町を発つことにしよう。とりあえず東へ進み、リヒテンシュタインを目指すのだ。

05/22 曇り 実はまだエンゲルベルグ Engelberg/HOTEL MARO/7.9km

 と言いながら、実はまだエンゲルベルグにいてるんだな、これが。朝、出発しようかと思ったけどやっぱりやめた。なんか気分が乗らない(笑) でもこれが正解だったみたい。

 というわけで、またまた自然を散策しのんびり過ごした。今日は徒歩だったが気持ちよかった。雪でいっぱいの凍てついた「Lake-Trubsee」を一周しうたた寝したり、タンポポなどが咲き乱れる草原を散歩したり。まさに優雅な1日・・・

 昼前にまたあの中華料理屋へ行ったら、「明日出発するなら今晩は絶対来いよ!タダにしてやるからな」と言ってくれた。毎日通った結果かな(笑) でも嬉しいね。

 また夕食の前にチーズ作りを見学できる喫茶店(というよりチーズ屋)へ寄った。ガラス張りの中でおじさん(Ernstさん)が作業中だったので、チーズをつまみながら見学。今日の仕事が終わったみたいで、その後話をした。このチーズ屋は今年の1月に出来たばかりらしい。また札幌に友人が居るということで、日本にも行ったことがあるんだって。椅子に座らず地べたに座るとことが、たいそう辛かったそうだ(笑) Ernstさんは「日本からポストカードを送ってくれないかい?」というので送る約束をした。「でも、来年になるよ」と言ったら「かまわないさ。オレも君のことをちゃんと覚えておくから」という返事。オレの方が忘れそうだ。もらった名刺をなくさないようにしよう。

 夕食はもちろんタダ。名刺をあげたら「日本朋友」と書き込んでちゃんとホルダーに入れてくれたので嬉しかった。いつの日かこの町を再び訪れたいと思ったね。

 6月1日にパリへ戻らなくてはいけなくなったから、明日にはこの町を出発しないとさすがにヤバイ。でも、こういう町で時間を気にせずのんびりと過ごすのも魅力的だなぁと思うよ。


戻る 続く