カブ・メンテナンス

工具について<重要>

 みなさんは「工具」についてどのように考えていますか?これからカブのメンテナンスを自分でしたいと思っている初心者の方には、是非とも工具についての知識を持っていてもらいたい。工具について言えることは、これほど「安物買いの銭失い」が体験できるものは無いということである。

 自分で整備するためには、まず工具が必要なのだが、「カブには車載工具があるから買う必要はない」と思っている方は、今日限りでその考えを捨てよう。車載工具はあくまで緊急時に、その場だけしのげればラッキーという程度のもので、カバーを取り外す位ならともかく、本格的な整備には全く使用できない。それではまず、工具の揃え方について解説しよう。

 工具を購入するために、多くの人はホームセンターへ行くだろう。どこのホームセンターの工具コーナーでも多くの工具が並んでいると思うが、この中に「使える工具」はごく一部だということを知っておこう。工具コーナーでまず目に付くのが「セット工具」。しかしこれは問題外!安い値段で多種多様な工具が入っているので、一見お得そうに見えるが、やはり期待を裏切らず、安物買いの銭失いを痛感させてくれる(笑)

 では「使えない工具」とはどのようなものなのだろうか。ズバリ・・・精度が非常に悪く、耐久性も無い。固いナットやネジ穴はすぐなめるし、工具そのものも曲がってしまう。ナットやネジをなめてしまった場合、自分ではもうどうすることも出来なくなり、ショップへ依頼するしか無くなってしまう。こうなればさらにお金がかかるし、時間的にも無駄が多い。安物を買うと必ず銭を失うのだ。

 次は、どういう工具が使える工具なのかということである。工具界で、最も有名なSnap-onはもちろん「使える工具」である。整備工場の人に借りて使ったことは何度もあるが、メッキが施されたあのツールはよく手になじみ、持っていることが一種のステータスである。文句の付け所があるとすれば値段である。プライベートで購入できる価格帯とは言いづらく、仕事で使うわけではないのに、これだけのお金を出せる人は少ないだろう。他にMAC TOOLSもそれに並ぶ程の使える工具だが値段もやはりそれ相応である。他にフェラーリ御用達のUSAGなど、星の数程のブランドがあるが、ブランド名に騙されず、いいものを選ぼう。

 手ごろな価格で使える工具の銘柄ズバリは何なのか?ということを、はっきり聞きたい人もいると思うので、私の考えを言おう。それはKTCである。 これより安い工具はたくさんあるが、基本的に使えない工具だと考えている(もちろん例外もある)。現在「KTC」には、普通のモデルと、「ミラーネプロス」というメッキ処理が施されたモデルがラインナップされているが、プライベートで使うなら、普通のモデルで十分ではないだろうか。私にとってミラーネプロスはいつか手に入れたい憧れであるが・・・。
 普通のモデルとはいえ、メガネレンチで1本1,000円から3,000円 程度なので、安いとは言えないかもしれないが、KTC工具の精度の良さを考えるとリーズナブルと言えよう。「使える工具」を作るにはそれだけのコストがかかるということなのだ。なお「KTC」でカブのメンテナンス用に一通りそろえるとすると、数万円程度かかるが、信頼できる工具をわずか数万円で買えてしまうと考えれば決して高い買い物ではない。また、一度に全てそろえる必要はないので、必要になったものをひとつずつ買っていこう。ちなみに「Snap-on」や「MAC TOOLS」を揃えるのなら、その数倍は覚悟しなければならない。

 そんなことを言っても「KTC」でも手が出ない、という人も少なからずいるだろう。そういう人は、せめて「JISマーク」のついている工具を購入しよう。そして、「この工具では固いナットやネジをなめてしまうかもしれない」ということを常に頭に入れて、工具の正しい使用法を厳守して作業をすることだ。ヤバそうだと思ったら、無理に作業をせず、ショップに行って依頼しよう。店の人と仲良くなれば工具を貸してもらえるかもしれないし、ナットを緩めるくらいならやってもらえるかもしれない。

 

 では簡単に各種工具を紹介しよう。まず、写真に示したのがレンチ(スパナ)で、上がオープンレンチ、下がメガネレンチと一般的に呼ばれる。オープンレンチはその名の通り片方が開いており、ボルトやナットに掛けやすいが2ヶ所でしか支えられないため、ナメやすい。一方、メガネレンチは掛けにくいが6ヶ所で支えるためナメにくい。つまり、仮締めやトルクがそれほど掛からない場所はオープンで、本締めやトルクの掛かるところ(しっかりと締めこまなければいけないところ)はメガネでというように使い分ける必要がある。

 レンチの中には一見万能とも思われるモンキーレンチとよばれるものもある。これはローラーを回すことにより幅を調節できるレンチで、何種類ものオープンレンチを一本で済ますことができる魔法の工具である・・・といいたいところだが、世の中そうは甘くない。モンキーレンチほど一般に普及しているのにこれほど奥が深い工具はないだろう。「モンキーを使うのは初心者」とも言われ、「モンキーを使うのは上級者」とも言われる。意味がわかるだろうか?初心者は面倒くさいからといってよくモンキーレンチを使うが、上級者は適切なところでモンキーレンチを使うという選択が出来るということなのだ。もしもの時のために一本は持っておくことをおすすめするが、可動部分があるため耐久性はもちろん低いし、ナメやすいということをわかっておこう。あまり多用しないようにするのが脱初心者といったところだろうか。

 他に大変便利な工具もある。写真で示したのはラチェットハンドル(上)とソケットレンチ(下)でこれらを組み合わせることで、ナットやボルトを素早く締めたり緩めたりできる。ラチェットハンドルには突起があり、その突起をソケットレンチの穴に差し込んで固定する。またラチェットハンドルにはギアが組み込まれており、回転方向を変えるスイッチがついているので素早い作業が可能である。しかし、トルクが掛かる場所ではラチェットが壊れる危険があるので使用しないこと。

 ラジオペンチ(上)とプライヤー(下)も重要な工具である。ラジオペンチは先が細くなっているペンチで、これがないとチェーンのジョイントを外したりかけたりが出来ない。他に、小さなものをはさんだりと用途は豊富である。定期的にオイルをさしてやらないと固くなってくるので、面倒くさがらずに工具のメンテも行おう。またプライヤーもペンチ同様はさむ道具だが、はさむ幅を2段階で変えられる。いざという時に持っていると便利なので、1個ずつで十分だが、必ず持っておこくようにしよう。

 ドライバーもまた重要な工具である。特にプラスドライバーは良く使う。またプラスはしっかりとネジに押し付けながら回さないと、すぐネジ穴をナメてしまうので十分に注意して使おう。また、グリップの形状も回しやすいものでないとイライラするので、そのへんのことも考慮に入れてドライバーを選ぼう。

 最後になったが、バイクの整備には少なからず危険を伴う。またいい工具でも正しい使い方をしないと危険度はさらに増す。怪我をしてしまっては楽しくも何とも無い。せっかく自分で整備しようと思っているのなら、その想いが無くならないように、簡単なところから、楽しみながらやっていこう。


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